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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)2277号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、訴外高田耕司から金一九〇万八六二四円の支払を受けるのと引換えに、別紙目録二記載の建物を収去して同目録一記載の土地のうち右建物敷地部分を明け渡せ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去して同目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)のうち右建物敷地部分(以下「本件敷地部分」という。)を明け渡し、昭和六〇年七月三日以降右土地明渡し済みまで一か月金四万円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、本件土地を所有している。

2  被告は、本件土地上に本件建物を所有して、本件敷地部分を占有している。

3  原告が、本件土地の所有権を取得した後である昭和六〇年七月三日以降の本件敷地部分の相当賃料額は、一か月四万円である。

よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき、本件建物を収去して本件敷地部分を明け渡すことを求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、昭和六〇年七月三日から右土地明渡し済みまで一か月四万円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因2の事実は認め、同1及び3の各事実は知らない。

三  抗弁(留置権)

1  被告は、昭和五八年一〇月一日、訴外芙蓉建設こと高田耕司(以下「高田」という。)から、当時の宇治市伊勢田町大谷二一番、二〇番、七番三の各土地(以下「本件造成地」という。)の宅地造成工事を、報酬合計金二三〇〇万円で請負った(以下「本件請負契約」という。)。

2  右二〇番の土地等は、昭和五九年五月、本件土地外に分筆された。

3  被告は、昭和六一年一月までに、前記工事を完成させたが、請負代金中一〇〇〇万円の支払を受けたのみで、残金一三〇〇万円は受領していない。

4  被告は、右未受領の請負代金一三〇〇万円の支払を受けるまで、本件土地の引渡しを拒絶する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は知らない。

2  同2の事実のうち、宇治市伊勢田町大谷二〇番の土地が昭和五九年五月頃分筆されたことは認め、その余は知らない。

3  同3の事実は知らない。

五  再抗弁(不法行為による占有)

1  訴外金井秀良(以下「金井」という。)は、高田から、本件土地の所有権を取得して、昭和五九年六月一四日、所有権移転登記手続を受けたが、その当時、本件建物は高田の所有であった。

2  ところが、被告は、翌六月一五日、高田から本件建物の所有権を取得して、本件土地の占有を開始したものであって、金井の所有する土地を不法占拠したものである。

六  再抗弁に対する認否

争う

第三  証拠関係(省略)

理由

一  請求原因について

1  成立に争いのない甲第一号証、証人金井秀良の証言によれば、本件土地は、高田が訴外北川嘉則から購入して所有していたこと、高田は、本件土地の周辺の土地も所有していたが、昭和五九年六月一四日、金井から約六〇〇〇万円を、二か月後に一括返済するとの約定で借受け、同人に、本件土地を含む五、六区画の土地を譲渡担保に供したこと、そして、高田は、同日付で自己に所有権移転登記手続をしたうえ、金井に対し、同日付で、譲渡担保を原因として所有権移転登記手続をしたこと、金井は、高田が、弁済期を徒過しても借受金を返済しないので、譲渡担保に供された本件土地等の所有権を確定的に取得し、本件土地については、同年八月一八日、右所有権移転登記の登記原因を売買とする更正登記手続をなしたこと、金井は、昭和六〇年六月、本件土地を原告に売却し、原告に対し、同年七月、所有権移転登記手続をなしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右によれば、請求原因1の事実を認めることができる。

2  請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の留置権の主張について検討する。

1  宇治市伊勢田町大谷二〇番の土地が、昭和五九年五月頃分筆されたことは当事者間に争いがなく、右事実と、前記甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証の二、乙第二三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二ないし第二一号証、証人道上順三の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、第二四号証、本件現場ないしその付近の写真であることにつき争いがなく、その余については弁論の全趣旨により被告主張のとおりの写真であると認められる乙第二二号証、証人金井秀良及び同道上順三の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  被告は、昭和五八年五月頃、高田から、同人の所有している本件造成地上の竹藪を伐採して、宅地に造成してもらいたい旨の依頼を受け、同年七月ないし八月頃から工事に着手し、同年一〇月一日、工事請負契約書を同人との間で作成した。

(二)  右請負契約の内容は、本件造成地を、請負代金二三〇〇万円で宅地に造成する。請負代金の支払は、契約時に三〇〇万円、その後七〇〇万円を部分払し、工事完成引渡し時に一三〇〇万円を支払うというものであった。

(三)  本件造成地は測量の上次第に分筆されていったが、本件土地もその中に含まれていた。被告の造成工事により、造成された土地は順次高田に引渡されていき、右工事は、昭和五九年九月頃までには一部道路の舗装工事を除いて総て完了したが、その間の同年八月に、高田が詐欺罪で逮捕され、同人の資金面に不安が生じたので、被告は右工事を中断したまま現在に至っている。そして、請負代金のうち、最終の一三〇〇万円が未払の状態にある。

(四)  本件土地についても造成工事は完成していたところ、高田は、同地にその営業のための事務所を設置しようと考え、被告に対し、その旨申し向け、プレハブ建物の建築を依頼し、被告は、昭和五九年五月三〇日、訴外松本商店からプレハブ建物を八〇万円で購入し、被告において同年六月一日建築し(これが本件建物である。)、これを高田へ一〇〇万円で売却したが、同人が代金を支払えないので、同月一五日本件建物を譲渡担保として取得し、これの引渡しを受け、本件建物を所有することによって、現在まで本件土地全体を占有している。

以上の事実を認めることができ、証人金井秀良の証言中、右認定に反する部分は、にわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件請負契約によって、本件土地を含む本件造成地は、竹藪から宅地に改良され、その価値を増加したから、本件請負代金は、民法二九五条の「その物に関して生じた債権」に該当すると解せられる。

3  そこで、再抗弁について判断する。

(一)  前記1の認定事実によれば、被告は、本件土地等の当時の所有者であった高田から、本件土地及びその周辺の土地の引渡しを受けて宅地に造成したところ、高田から本件土地に本件建物を建築して、それを売却して欲しい旨依頼され、昭和五九年六月一日右建物を建築し、同人に売却したが、同人が代金を支払えないので、同月一五日、右建物を譲渡担保として取得し、今日まで本件土地を占有しているのであり、一方、前記一によれば、金井は、同月一四日、本件土地を、高田から譲渡担保に受け、所有権移転登記手続を受けたが、弁済期は二か月後であり、その当時は、本件土地の所有権を確定的に取得していてなかったということができ、本件全証拠によるも、本件土地が金井に譲渡担保に供されたことを被告が知っていたことを認めるに足りない点も併せ考慮すると、被告の本件土地に対する占有が、民法二九五条二項に該当するとはいえないというべきである。

(二)  よって、再抗弁は理由がない。

4(一)  抗弁4の事実は、訴訟上明らかであるところ、被告は、本件留置権の被担保債権額は、本件請負契約の残代金一三〇〇万円全額である旨主張する。

(二)  しかしながら、右代金は、本件造成地全体に対する請負代金の残金であり、それが総て本件土地のための費用とはいえないのであり、また、前記1の認定事実によれば、被告は、造成を完了した土地を順次高田に引渡していったことが認められ、この部分の土地については被告は留置権を放棄していったと解せられるから、この点からも、その全額を、本件留置権の被担保債権とすることは相当でなく、それは、本件請負代金全額のうち、本件造成地に占める本件土地の面積分に相当する金額と解するのが公平上相当である。

(三)  そして、前記乙第一号証によれば、高田と被告は、本件造成地の面積を、約六五〇坪として、請負代金を二三〇〇万円と決めたことが認められるところ、前記甲第一号証によれば、本件土地の公簿面積は一七八平方メートルと認められるから、これによって、本件土地の面積分に相当する請負代金額を計算すると、一九〇万八六二四円(一円未満切捨て)となる。

(四)  なお、原告は、本件建物を収去して、本件敷地部分のみの明渡しを求めているが、前記認定事実によれば、被告は、本件建物を所有することで本件土地全体を占有しているから、民法二九六条の趣旨に照らし、右金員全額の支払を受けるまで、本件敷地部分を占有できると解すべきである。

(五)  よって、被告は、前記一九〇万八六二四円の支払があるまで、本件土地につき留置権を行使することができる。

三  原告は、本件土地の不法占有による損害賠償を請求しているが、被告の本件土地の占有は、前記二のとおり、留置権の行使による適法な占有であるから、原告の右請求は理由がない。

四  以上によれば、原告の請求は、被告に対し、高田から金一九〇万八六二四円の支払を受けるのと引換えに、本件建物を収去して本件敷地部分を明渡すことを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条を適用し、なお仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下し、主文のとおり判決する。

別紙

目録

一 宇治市伊勢田町大谷二〇番四

山林     一七八平方メートル

二 右地上

プレハブ平家建事務所  一棟

床面積     約三〇平方メートル

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